BARATEE

鳶は鷹を生まないが、

「鳶が鷹を生む」という諺がある。
「平凡な親からすぐれた子どもが生まれることのたとえ」らしいが、
この諺には、以前から違和感があった。

もちろん、
トンビ(※)がタカを生むなんて、
ありえないということもわかっているし、
あくまで“モノのたとえ”だということも理解している。
(ちなみに、生き物の名前は文語的には漢字で表されることが多いが、
学術的な種名はカタカナ表記で、というお約束があったりする)

「鳶に失礼だ!」というのとも、ちょっとちがう。
う~ん、なんといえばいいのか、この違和感はどこからくるのだろう…?

*  *  *

この言葉の由来は諸説あるようだけれど、
「鷹狩りができる(人の役に立つ)から」というのが、
「すぐれている」とされる理由らしい。

鷹匠の流派によっては、
「鷹を主(あるじ)と思え」なんて教えもあるそうだけど、
人の役に立つから「優秀」「有能」というのは、どうだろう。

それは単に、「有用」ってだけじゃないかい?

どうやら、私の違和感はここからきているようだ。

*  *  *

ちなみに、
鷹狩りに遣われる(この諺で「鷹」と呼ばれている)のは、
おもに、イヌワシ、オオタカ、ハイタカ、ハヤブサなど。
(カッコ良い名前がずらり!)

これらの種は、生きた動物を捕らえる「ハンター」だ。
彼らが狙うのは、キジ、ヤマドリ、カモ、ウサギなど、人間もおいしく食べられるもの。
だから、鷹匠は鷹の力を借りて、獲物を仕留めてもらう、というわけだ。

ハヤブサ@サンマルティン動物園(エクアドル)

*  *  *

では、トンビはどうか。

もちろん、トンビだって狩りはする。
ただ、狙うのは、カエル、トカゲ、ネズミ、ヘビ、魚などの小動物だ。

そして彼らには、
鷹には手出しできない、大事な“獲物”がある。

鳶が横を向いている

トビ@池田動物園(岡山県)

「ピ~ヒョロロロ~」と鳴きながら空を旋回する姿を、
誰もが一度は見たことがあるだろう。

彼らは上昇気流に乗ることで、
ほとんど羽ばたくことなく、空に舞い上がることができる。

8.0もあるという視力で上空から探すのは、
彼らのもうひとつのおもな“獲物”──動物の死肉だ。

こうした食べるものに関する特徴(食性)も、
「三流の猛禽」っぽく扱われる理由のひとつかもしれない。

うん、だんだんと違和感の正体に近づいてきた気がする。

*  *  *

「死肉を食べる」というと、
不潔とか、いやしいというイメージがあるかもしれないが、
こうした動物は「スカベンジャー(屍肉食)」と呼ばれ、重要な役割を担っている。

通常、死んだ動物の肉体は、時間とともに病原菌の温床となり、
ほかの動物にも病気が蔓延してしまう。

しかし、
腐敗が進むまえにスカベンジャーが駆けつけ、食べることで、
菌が拡散するのを防ぎ、死体が土に還る(分解される)のを早めることができる。
彼ら自身は丈夫な消化器官をもっているので、ちょっとやそっとの菌はへっちゃらなのだ。

そう、彼らはいわば、自然界の『掃除屋』さん。
おなじみの仲間たちは、コンドル、ハゲワシ、ジャッカル、ハイエナ※、カラスなどだろう。
(「「「「お掃除戦隊 スカベンジャー!」」」」)

意外なところでは、
ライオンや、アリなどの昆虫もスカベンジャーだ。

そうそう、それから。
かっこいい恐竜の代表格、ティラノサウルスも、
数百万年前、アフリカで暮らしていた私たち人類の祖先も、
むかしは『掃除屋』として生きていたらしい。

*  *  *

なるほど。
ここまで考えて、
違和感の正体が見えたと同時に、
ふたつの結論が出た。

*  *  *

ひとつ。
己の“狩る力”だけで生き抜く「鷹」のみなさんも、
わずかな労力で着実に成果を得る「鳶」のみなさんも、
逞しく、強かで、どちらも優れている。

また、
調教によって、人に直接的な利益をもたらしてくれる鷹は確かに「有用」だが、
鳶だって、『掃除屋』として、間接的に周囲の役に立っている。

だから、
文語的な違和感を指摘すれば、
「鳶は鷹を生まないが」、
──「鳶だって鷹である」。

*  *  *

そして、もうひとつ。

これまでの話を、土台からひっくり返そう。

じつは、
トンビも、コンドルも、ハゲワシも、みんなタカ目だ。
(トンビに至っては、タカ目タカ科!)

つまりトンビは、
『トンビ』と呼ばれる生き方
(もしくは、『○○タカ』と呼ばれない生き方)で
進化してきたタカ、といえるだろう。

そんなわけで、もうひとつの結論。

生物学的な違和感を指摘すれば、
「鳶は鷹を生まないが」、
──「トンビだってタカである」。

トビの解説パネル@久留米鳥類センター(福岡県)

今日のはなしは、ここまで。

※種名は「トビ」だが、このコラム内では親しみを込めて、俗称の「トンビ」と呼んでいる。

※ハイエナは狩りが得意な「ハンター」でもある。
自分たちで狩りをする割合も成功率も、ライオンより高いそう。
むしろライオンのほうが、ハイエナが仕留めた獲物を横取りすることが多いとか…。

【写真:ハヤブサ】
鷹狩りでもよく用いられるハヤブサ。
この種は「学名:Falco peregrinus cassini」と教えてもらったが、和名が見つからなかった…。

【写真:トンビ】
傷病鳥獣として保護され、動物園で飼育されている個体。肩のあたりを怪我している。
(Photo by Takushi Yokoyama)

【写真:トビの解説パネル】
飼育係の方が描かれた解説パネル。トビの生態や特徴をわかりやすく伝えてくれている。
(Photo by Takushi Yokoyama)

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